朝、或る歌の一節が頭の中でリフレインし始めた。
声質から言って、ヘレン・メリルだと思われる。
さっそく"Helen Merrill"を聴く。
このアルバムを聴くのは久しぶりだ。
このアルバムはDon't Explainから始まり、超有名なYou'd be so nice to come home to へ続き、What's New、Falling in love with love、Yesterdays、Born to be blue、's Wonderfulとスタンダードの名曲のオンパレード。
一般的にはボーカルのHelen Merrillにスポットが集まるが、実のところこのアルバムの魅力はこれだけではない。
日本版の場合、復刻の度にアルバムタイトルが"ヘレン・メリル ウィズ クリフォード・ブラウン"となっていることが多いのだが、まさにブラウニーのペットによる合いの手やソロ、そしてなによりクインシー・ジョーンズのアレンジこそがこのアルバムの真骨頂だ。
Clifford Brown:tp(クリフォード・ブラウン)はこのとき24歳。Helen Merrillが24、Quincy Johnsに至ってはまだ21だった。
余り知られていないことだが、マイケル・ジャクソンの「スリラー」などで知られるポップスの帝王クインシージョーンズは、実はトランペッターだった。
少年時代に3歳年上のレイ・チャールズと知り合い、バンド活動開始。
51年にバークリー卒業。
ライオネル・ハンプトン:vib の楽団でバンドアレンジを始め、カウント・ベイシー、デューク・エリントンなど名だたるビッグバンドのアレンジを経て、57年巴里で更に音楽理論や作曲の勉強をして映画音楽に進出。
60年代にプロデューサー業に入る。
このころからの熱烈なファンに久石譲がいる。
現代音楽を専攻する以前、高校生の頃にクインシーに魅了された少年はそのころからクインシー・ジョーンズをもじった久石譲を名乗りはじめる。
高校生ですでにこの魅力にとりつかれていたというのはいかに久石が早熟だったかを物語るエピソードだと思うが、実際クインシー編曲の「もろJazz」の作品は、恐ろしいほど静謐で、それでいて色香が漂っていて、ゴージャスだ。
これだけの音数の少なさからきらめくような旋律を紡ぎ出して見せる手法が実はすでに21の時にはこのアルバムとして結実している現実は、ある意味我々凡人を震撼させるに足るものだろう。
ブラウニーことクリフォード・ブラウン(Clifford Brown)
53年、23の時にアートブレーキーをバックに初リーダーセッション。
翌54年、伝説の「バードランドの夜」セッションに参加。同年双頭バンド「ブラウン=ローチ・クインテット」を結成。
また同年本アルバムも録音されている。
56年、バド・パウエルの弟リッチーパウエルとともにリッチーの妻の運転する車で移動中交通事故死。享年25歳
早熟の天才はあっという間にこの世を駆け抜けていった。
Sarah Vaughan 邦題「サラ・ボーン ウィズ クリフォード・ブラウン」
Dinah Jams 邦題「ダイナ・ワシントン ウィズ クリフォード・ブラウン」
は "Helen Merrill" と並ぶ、EmArcyのボーカル3大傑作であるとともに、クリフォード・ブラウンの短すぎた煌めきを記録した貴重な音源であることに間違いはない。

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